物損事故による損害賠償請求

交通事故の場合、けがなどの人的損害のほかに、自動車の損壊などの物的損害も生じます。物損の場合も、相手方に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。
物損の場合は、自賠責保険の適用はありません。
物損事故で問題になるのは、主に車両の破損自体の損害、代車費用、休車損害、過失割合です。

車両破損による損害

車両破損による損害は、修理が相当な場合と、全損の場合とに分けられます。

(1) 修理が相当な場合

車両の修理が相当な場合は、適正修理費相当額が損害として認められます。
修理してもなお車としての機能、外観が完全に修復せず、事故前と比較して価値の減少がある場合には、その減少分(評価損)が損害となります。

(2) 全損の場合

全損とは、被害車両が修理不可能、または、修理費よりも同等の中古車に買い替えたほうが安価になる場合をいいます。車両が全損である場合は、車両の交換価値と被害車両を処分した金額との差額(買替差額)が損害額になります。車両の交換価値は、事故直前の時価相当額をいいます。車両の時価は、原則として同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するのに必要な価額をいいます。
なお、全損の場合は、買替えのために必要な登録費用、車両証明手数料、納車費用、廃車費用のうち法定手数料及び相当額のディーラー報酬部分、中古車取得に要する自動車取得税は損害として認められます。しかし、買替後の車両の自賠責保険料、自動車重量税、被害車両の未経過の自動車税及び自賠責保険は損害として認められません。

代車費用

(1) 代車の必要性 

事故により車両の修理あるいは買替えが必要となった場合で、相当な修理期間または買替期間中、レンタカー使用等により代車を利用したときに認められます。
代車の利用が認められるのは、修理あるいは買替に必要な期間です。修理期間は1週間ないし2週間となるのが通例ですが、部品の調達に時間を要する場合や営業車登録の必要がある場合など、相当な理由あれば、長期間にわたる代車の使用も認められることがあります。
これに対し、現実に代車を使用していても、被害者が他に車両を保有しているなど代車使用の必要性がないときは、代車料は認められません。

(2) 代車の種類

代車としては、事故車と同種、同年式といった同程度のものが認められますが、事故車が外国車の場合、代車は国産車で足りるとされることもあります。
代車車両を使用するのではなく、タクシーなどを利用することも認められることもあります。この場合、タクシー代のすべてが認められるのではなく、代車料相当額の範囲で認められることが多いです。

休車損害

(1) 休車損害の対象

休車損害とは、事故車を修理し、また買い替えるために必要となる相当な期間について、事故車で営業を継続していれば得られたであろう利益を損害とするものです。運送事業に使用している営業用車両(緑ナンバー)は、他の自動車を無許可で代替して使用することは許されないので、当該車両が使用できなくなった期間は営業による利益があげられなくなります。そのため、休車損害が認められる必要があります。
休車損害の対象となる車両は、トラック、バス、タクシーなどの営業用車両(緑ナンバー)です。一般の事業で使用する営業車ではない車両の場合は、通常代車を確保することができるので、代車使用料の賠償で足りることが多いです。
予備・遊休車両が利用できる場合には、休車損害は減額または否定されることがあります。

(2) 休車損害の算定方法

休車損害額は、1日あたりの損害額×休車期間として算定されます。
休車期間は、修理期間、買替に必要な期間、新規購入車両の納入に必要な期間、営業許可を受けるために必要な期間をもとに認定することになります。
問題となるのは、1日あたりの損害額をどのように認定するかです。通常は、(ある期間の売上額-経費)÷日数で算定します。
経費は、事故車を使用できなくなって支払いを免れた経費のことをいいます。例えば、燃料費、道路使用料、修理代、フェリー使用料などです。運転車の人件費については、事故車休車とともに事故車運転手も仕事を休んだ場合は経費となりますが、運転者が他の業務に従事していたときは経費にならないとされています。

過失割合

過失割合は、事故態様の類型に応じて、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ38号)」にまとめられています。過失割合は、裁判例の蓄積により、ある程度類型化されていますが、交通事故は個別具体的なものである以上、それぞれの事故特有の事情をよく検討する必要があります。
相手方の保険会社との間で、過失割合について争いとなることが多いため、証拠の収集が重要になります。